明治三十四年の庫裏
改修 / 鳥取県湯梨浜町
2021年
施工業者:鶴澤建築
ご依頼内容・施工前の様子
- 劣化が目立ってきた床材を貼り替える
- 庫裏の出入口(僧侶が居住する場所の玄関)に相応しい構えとしたい
明治期の建物の造りを活かした改修が成されています。床には、松柾目の薄単板張り材が使用されていました
提案内容・施工風景
- 保管していた欅の古材を使用(新規に購入する材は、岡山の銘木屋で選定)
- 欅材の癖を消すための加工を大工さんと相談
- 玄関に面した座敷の襖戸を、柾目板戸へ改変
- 玄関のアルミ建具を、古写真にもとづいて木製格子建具へ改変
正面に見える大黒柱と梁は、建てた当時(明治三十四年)の欅材です。この存在感に合わせられる材は、やはり本物の欅材しかないのでは、、、と考えていました。しかし、「高価になること」「木の癖が強く、反ったり捻じれたりすること」など、安易に提案出来ずにいました。そんな中、お施主さんがボソっと「欅で揃えられたら綺麗だろうね」と言われたため、これを叶える方法を考えました。
大工さんが手道具(ノミ)で加工しています。釘などの金物だけでは欅材の癖に対抗できないため、伝統的な木組みで癖を打ち消していきます。
施工完了・その後
柾目板と、カシュ塗りの黒い框(建具の縁)が合わさった建具が、格式の高さを現します。床の欅板の活き活きとした木目と、建具の格式高さ、建物が元来もっていた重厚感に馴染む玄関となりました。
設計士より
今回使用した古材の板は強い思い入れを持って保管していた材です。大切に思っていた旧家が解体される際、取り外した材だからです。板の裏には明治41年の大工の落書きが残されていました。「因伯仏教孤児院」これは、現在の因伯子供学園の前身で、現在の妙寂寺(浄土真宗本願寺派)境内に創設された施設です。おそらく、私が大切に思っていた旧家の工事には、この施設に縁のある大工が携わっていたのだと思います。そして、妙寂寺は当寺と同じ宗派のお寺でもあります。
また当寺は、私の曾祖母の父が一建立の鐘楼堂を寄進しています。「恥ずかしい事はしたくない」という強い意識をもって工事に臨みました。
工事の途中で、以前の玄関に使われていた古材が僅かに見付かりました。材種は欅で、この度の材と見事に一致しました。お寺さんへ相談し、優先的にこの材を活かすこととしました。
この度の大工さんには、感謝しています。私にとって特別なこの古材は、全て土や埃にまみれた「汚い」ものでした。現代の工事で使われる建材は、切ってそのまま取り付けることのできる、手間のかからない扱いやすいものが主流です。一方この度使用したのは、癖の強い欅材であると同時に敬遠されがちな古材でもありました。癖を見極めた上で材料を作る事が必要な難しい工事です。技術に加えて高い集中力を維持し続ける必要があります。「こんな工事できん」と断られる場合もあります。しかし、手間を惜しまず愛情を注いで頂きました。工事がオリンピックと重なったこともあり「自分にとってのオリンピック笑」と真摯に向き合って下さいました。
「この工事は、この建物がある限りの残るもの。自分たちより長く生きる仕事」そんな言葉が自然とこぼれる現場でした。